この記事のポイント
アメリカでは2024年11月5日に大統領選を迎えます。現在の主要な候補者である民主党のバイデン大統領、復権を目指す共和党のドナルド・トランプ前大統領の支持率は拮抗しており、どちらが大統領に選ばれるか不透明な状況であり、市場では「もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら(もしトラ)」というシナリオも語られています。
2016年の大統領選で当選したトランプ氏は、大統領選中から前例にとらわれない大胆な政策や過激な発言などを繰り返し、当選後は、実際に税制や貿易政策、環境政策を大きく変えることで産業界に大きな衝撃を与え、マーケットも大きく変動しました。
今回の大統領選においても、トランプ氏の公約集「アジェンダ47」によると、ロシアとウクライナによる戦争の即時停止や、中国に対して再び厳しい貿易政策を取ること、そして温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」からの再離脱などが掲げられております。
「もしトラ」が実際に起きた場合、ROBOPROにはどのような影響があるのでしょうか? ROBOPROで運用されている方も、これから始めようとしている方も気になるポイントではないでしょうか。この記事では、株式会社FOLIO 金融戦略部 シニア・アドバイザーの井上輝彦が第一期トランプ政権時の市場の動きを用いたROBOPROの運用シミュレーションを元に解説します。
井上 輝彦(いのうえ てるひこ)株式会社FOLIO 金融戦略部 シニア・アドバイザー。1980年代から、アナリスト・ファンドマネジャーとして年金資金や投資信託の運用に従事。 2006年から大手資産運用会社にて株式運用部長を務める。 現職では、ROBOPROの運用分析やお客様向けの解説等を担当。
トランプ政権誕生から2017年下旬まで、米国株は上昇しROBOPROも堅調に推移
司会:
井上さん、「もしトラ」が現実になった場合、ROBOPROにはどのような影響があるのでしょうか? 詳しく教えてください。
井上:
それでは前回のトランプ政権の時に、どのように市場が動きROBOPROが対応したかについて、シミュレーションベースですがご説明しましょう。
以下のグラフはトランプ政権が誕生した2016年から2020年12月までの、米国株(赤線)、一般的なロボアドバイザーによる運用(薄緑線)、そしてROBOPROのバックテストの結果を元に作成したパフォーマンスの推移(緑線)を比較したものです。
司会:
折れ線グラフの米国株というのはVTIと書かれた赤い線ですか?
井上:
はいそうです。VTIというのは米国にある巨大資産運用会社であるVangard社が提供しているETF(上場投資信託)で、米国株式の大型株から小型株まで、約3,700社ほどの銘柄で構成されているETFです。
司会:
つまり米国株に丸ごと投資できるETFということですか?
井上:
そういう理解で問題ないです。まず、このVTIの動きに注目していただきたいのですが、この期間中かなり大きく乱高下しているのが見て取れるかと思います。
まず、大統領選がおこなわれた2016年の年初の動きを見てみましょう。2015年の年末あたりから景気が悪化していたことや、大統領選での先行き不安等が重なりこの頃は乱高下しながら軟調に推移していました(図中①)。
司会:
確かに2016年7月過ぎまで年初よりも低迷して動いていますね。世論からは「本当にトランプ氏が大統領になったらアメリカ経済はどうなるんだろう?」という声も聞こえていました。
井上:
ところが、2016年11月に開催された大統領選でトランプ氏が当選すると、米国株が大きく上昇しました(図中②)。
司会:
たしかに急激に上昇していますね。でも一つ聞きたいんですが、当時世間の印象ではトランプ氏はかなりアメリカ中心主義で過激な発言を繰り返していましたよね。なんでそんなトランプ氏が当選したら米国株が上昇したんですか?
井上:
確かに当時「トランプ氏が当選したら世界経済は終わりだ」のようなことを、メディアをはじめ多くの人が口にしていました。ところが米国株は上昇、そしてその後も右肩上がりに上昇しました(図中③)。
これは、トランプ政権が1年目において、法人税の引き下げや中間所得世帯に対する減税を軸とした税制改革を推進したことが背景にあります。法人税に関しては当時35%だったものを21%と大きく引き下げました。
司会:
なるほど、企業は政策の恩恵を受けた面もあるんですね。
井上:
個人所得税についても、最高税率の引き下げや概算控除の拡大や児童税額控除枠の拡大等が図られました。この税制改革の実現には、議会との調整もあり時間はかかりましたが2017年末には税制改革法案は成立しました。この法人税制引き下げをはじめとする税制改革への期待に支えられ、当時、急速に成長していた情報技術関連のハイテク株を中心に米国株は堅調に推移しました。つまりトランプ政権の政策は、米国の企業の利益の拡大という面においては非常にメリットのあったものだったのです。
司会:
そういう話があったんですね。他にはどんな政策があったのでしょう?
井上:
企業の海外での活動による利益を非課税化し、海外からの配当の非課税化を行い、合わせて移行措置として1986年以降に企業が溜め込んできた海外留保利益を国内への還流させる際の税率を35%から15.5%への軽減措置(1回限り)なども打ち出したりと、米国の企業にとってはメリットのある政策を実施したのです。
この結果、米国の会社は潤沢な資金を回収することができて、その資金で株の買い戻し(自社株買い)などをしました。
司会:
この時期のROBOPROはどうなんでしょう?
井上:
以下折れ線グラフの下にある棒グラフは、ROBOPROのその時の株式の組入れ比率を示したものです。株式は赤色のVTI(米国株)を中心に保有していたこともあり(緑枠の部分)、上昇の恩恵を受けて緑色の折れ線で示したROBOPROも堅調に推移しました。
司会:
確かに堅調に推移していますね。
2018年以降、米国株が乱高下する中でROBOPROは下落幅を抑制しながら推移
井上:
2017年は、堅調に推移していた米国株ですが、2018年2月に大きく下落しました。これは、減税に伴う財政赤字の拡大懸念とインフレ懸念により米国の長期金利が上昇したことに起因します。いわゆる「VIX*ショック」です(図中④)。(*VIX……VIX指数とは株価の変動性の予想を示す指数。恐怖指数とも呼ばれ、この指数が上昇すると相場変動に対する市場の警戒度が高く、下落すれば低いとされる。)
司会:
長期金利が上昇したために、株価が下落したということですね。
井上:
ROBOPROは、前年の2017年8月時点での50%近くあった米国株式の組入れ比率を2018年2月時点でほぼ半分までに引き下げておりました。
司会:
なるほど、組み入れを引き下げて下落リスクを半減させたわけですね。
井上:
さらに2018年7月から、トランプ政権の主要政策の一つである中国に対する制裁関税がスタートしました。これがまた米国株式に大きな影響を与え下落しました(図中⑤)。
司会:
なぜ中国への制裁関税が米国株式に影響を与えるのですか?
井上:
アメリカは世界中の国々と取引をしていますよね。そんなアメリカが中国に厳しい制裁を課してしまうと、米国はもちろん世界の景気や貿易はどうなるのか? その点が嫌気されて米国株が下落したのです。さらに2018年12月に米国のFRB(連邦準備制度理事会)パウエル議長が、世界経済の成長が減速していると発言した一方で、利上げ等の金融政策方針は従来通りである旨を示したためリスク回避傾向が強まって株価が下落しました(いわゆる「パウエル・ショック(図中⑥)」)。
ここでのROBOPROの動きですが、折れ線グラフの2018年5月をピークにROBOPROは株式の組入れ比率を引き下げ始めており、10月は株式の組み入れを0%としております。
「もしトラ」が起きても過度な不安を抱かずにROBOPROにおまかせ
司会:
確かにそうですね。その結果、この対中関税による下落や年末の大幅下落を比較的回避することができているように見えます。
井上:
金利や他の株式市場と比較し米国株式市場が上がりすぎていると判断したため、ROBOPROは株式を手放したと推測されます。この結果、2018年11月までは株式市場の大幅下落の影響をほとんど受けずに済み、11月以降はむしろ株式の組入れ比率を引き上げを始めることができました。
司会:
確かにROBOPROとVTIの2018年12月以降の推移を見ると、途中の下落を回避しながらROBOPROがパフォーマンスを保っているのがわかります。
井上:
トランプ政権の末期には、コロナ・ショック(図中⑦)という大きな下落がありましたが、そこも事前に株式の組み入れ比率を引き下げることで乗り越えながら運用していきました(コロナ・ショックをなぜ回避できたかはこちらのコラムをご参考ください)。
井上:
つまり、トランプ政権時代はその政策によって米国株が乱高下していましたが、そのような市況の中でも、ROBOPROは投資配分を巧みに変更しながら運用していきました、ということをお伝えしたいのです。ですから、「もしトラ」が現実になっても、そんなに過度な心配をする必要はないというのが私の考えです。
司会:
なるほど、ということはトランプ政権が再び誕生しても、過度な不安を抱く必要はなくROBOPROにおまかせで運用すればいいということですね。今回もありがとうございました。
※1 将来の傾向や投資収益等を示唆又は保証するものではありません。
※2 Bloombergが提供する米国上場ETFのデータを用いて、FOLIOにて計算し作成したものです。信頼できると考えられる情報を用いて算出しておりますが、情報の正確性、完全性等について保証するものではありません。
※3 本資料は、過去の特定の時点において投資していたETFについて解説するものであり、 実際にROBOPROが投資するETFは、 投資一任契約に基づき投資運用業者であるFOLIOが適宜選定するため、記載日以降も同一銘柄が選定されることを示唆又は保証するものではありません。
※4「ROBOPRO」の運用シミュレーションおよび運用実績について:2024年3月18日時点における最新の運用戦略を使用して2015/12/30~2020/1/14まで運用したと仮定したバックテスト結果と2020/1/15〜2020/12/30までの運用実績を繋ぎ合わせて算出したものを表示しています(最新の運用戦略は当社ウェブサイトのホワイトペーパーをご参照ください)。
※5「一般的なロボアドバイザー」の運用シミュレーションについて:「一般的なロボアドバイザー」とは、利用者がリスク許容度に応じて設けられている複数の運用コースの中から一つのコースを選択し、一般的な運用アルゴリズム(ノーベル賞を受賞した理論に基づき、金融機関において広く使われている平均分散法を採用。平均分散法における期待リターンはCAPMを用いて算出)を用いて自動で運用を行う投資一任サービスのことを指します。本運用シミュレーションは、一般的な運用アルゴリズムでROBOPROと同じETFを運用したと仮定したものです。リスク許容度はやや高めとし、5%ー40%の保有比率制限を設けて最適ポートフォリオを算出しています。
※4※5について:運用手数料を年率1.1%(税込)徴収し、リバランスは最適ポートフォリオとの乖離がないように実施したと仮定し、分配金は投資の拠出金銭に自動的に組み入れリバランスにより再投資したと仮定して計算しています。分配金やリバランス時の譲渡益に係る税金は考慮していません。計算は円建てで、算出は資産評価額/当初投資額-1で行なっています。
※6 ROBOPROの投資配分の推移について:各月に適用される投資配分の変更時点(ex.2024年1月は2023年12月29日時点)の比率を示しています。毎月の投資配分の変更とは別に、臨時で投資配分の変更を実施している場合があります。